忘れ物はないね?

『忘却』とは、忘れ去ることである。
人は『忘れる』という能力がなければ、絶望で生きていけないそうだ。
しかし、私にはそれらの忘れ物が大変愛おしく、また、そういった忘却の 中に存在する、私がかつて此処に存在していた証拠のかけらのようなものが、
どこか遠いところへでも散らばって、ある日ひょっと誰かのしゃっくりを止めたり
犬に遠ぼえをさせたりできないか、などと思うのである。
だから、私はこの日記を書くことにする。
この日記はその日にあった笑えることや、怒れることや、
その日に思い出した面白いことや悲しいことを記すためにある。どんどん忘れていくTwitterはコチラ

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2012年08月27日(月)『蟻と梨』日記 6 ◆河瀬さんの巻◆

レコーディングをしていたのは6月までだけれど、今、この日記を書いているのは8月の27日。
道を歩いていると、ふいに蚊取線香の匂いがしたり、夏じゅう陽にどっさりあぶられて黒い盛りのこどもが飛び出して来たり、木や木でないところにもしがみついて蝉がジャージャー言っていたりするのを味わいながらこの手紙を書いています(違う)。

録音はそして河瀬さんの登場。
河瀬さんは前作のおせっかいカレンダーでウッドベースで参加していただいて以来、ライヴの時にも、いろんな仕事の録音でも一緒に演奏していただいています。
もともとご本人的にはウッドベースをそんなに気が進まないのを、半ば無理矢理お願いした具合でして、しかしながら、そのベースはほんとにすばらしい!
河瀬さんの繰り出すグルーヴには絶対的に信頼をおいています。
ハネ、間、置き所、とにかくきもちよくて、けっちゃんとの相性も抜群なのです。
時に書き譜、時に謎のライン、時に丸投げ、という勝手な私のアレンジに、きっと最初は腹も立ったことでしょうけれど、最近は諦めの境地に行ってしまったのか、愚痴も言わず、おつきあいしてくださっています。申し訳ない。
しかしながら、何度でも言うのです。
河瀬さんのベースはすばらしい。
今回はコントラバス、という表記にさせてもらいましたので、コントラバスです。

想像してみてください。
私が時々、いえ、いつもやりたがるややこしいインストの曲も、河瀬さんがキメてくれるからこそややこしくなく聴こえるのです。
河瀬さんがいなかったら、ものすごくわけわかんない曲に聴こえるにちがいないのです。



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[link:1280] 2012年09月08日(土) 15:39


2012年08月27日(月)『蟻と梨』日記 7 ◆多田さんの巻◆

リズム隊のみなさまを進めながら、上に乗っかっていく楽器もスタート、というわけで、録音には多田葉子さんも加わっていただきました。

多田さんにはクラリネット、バスクラリネット、サックス各種をお願いしました。
多田さんにご一緒していただくようになったのは、この1年ほど前でしょうか。
華奢な体でバスクラやサックスをブリブリ操り、やんちゃなフレーズを繰り出す様は観ていてそれは楽しいのです。
野原をかけまわる子供のような、ゴム鞠のような、また時には鉄工所の男衆のような、いやいや赤ちゃんをやさしく寝かしつけるように天井でまわるオルゴールのような、そんなクラリネットやサックス。
そして、何より、多田さんの演奏を聴くと、とにかく、演奏することが大好きで、ライヴという場が大好きなんだな、ということがすごくよく伝わってきます。

音を出すことが楽しい、ということを体現しているかのように見える多田さん。
今回は、少しご無理もお願いして、自由なところも、あまり自由でないところも合わせてお願いしましたので、ストレスのたまることもあったのでは....と申し訳なく思ったりもしています。
が、できてみればやっぱり紛れもなく多田さんの音!

今度はそんな多田さんと、ライヴで演奏するのがまた大きな楽しみのひとつでもあります。

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[link:1281] 2012年09月08日(土) 15:43


2012年09月08日(土)『蟻と梨』日記 8 ◆関島さんの巻◆

そして、録音も進み、いよいよ関島さんにも登場していただくことになりました。

関島さんは、ファーストアルバムの『ドロップ横丁』以来ずっとお世話になっていますから、かれこれ15年ほど録音やライヴなどで演奏していただいていることになります。
私が東京に来たばかりで、鈴木博文さんのところへ曲を持っていったりしていた時、『これとりあえず録ってみようよ。あのねえ、ベースはテューバとかいいんじゃないかな。せきじまくん、っていういい人がいるんだよ。』と言って、博文さんが紹介してくださったのが関島さんでした。
私はベースをテューバで、というのにときめき、そして関島さんのあのなんともいえない柔らかく、しかしながら鋭い、エスプリ溢れる演奏に胸が踊り、以来、関島さんのテューバ、リコーダー、時々無理矢理お願いすると吹いてくれるフリューゲルホーンなどに魅了され続けています。
関島さんの演奏を見て、聴いて、いつも思うのは、やっぱりあのタイム感が誰にも出せない独特な世界だということと、音色のすてきさです。
ちゃんと背景はありながら、どこの国かわからない感じ。
アメリカでもありヨーロッパでもありニッポンであり、しかしどこでもない。それでいて、これは明らかに「この、小さなやかましい町の、狭い部屋の小さな電灯の下でささやかだけれど楽しい一瞬」の演奏なのです、というすばらしき無国籍な感じがします。
そして、どんな時でも、その音ひとつひとつがシャボン玉のように関島さんの吹くさきから「ポワッ ポワッ ポワッ ポワッ」と、まさに生まれている感じがするのです。
こんなふうに演奏できるってほんとーーーにスゴイです。
関島さんは、ほかのこともだいたいぜんぶすごくて、音楽に関係することもしないことも、これまで数々の勝負を挑んだのですが(命知らず)一度も、なにひとつ敵うものがありません(関島さんはあらゆるマスターなので敵うわけがないのですが)。
きっと関島さんの中にあるそういう無尽蔵な見聞や知識や経験や考えやイマジネーションが音符になってポワッポワッと生まれているのだと思います。

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[link:1282] 2012年09月09日(日) 13:36


2012年09月09日(日)『蟻と梨』日記 9 ◆るっちゃんの巻◆

るっちゃんは、本当にアコーディオンを楽しく弾く人です。
楽しくも悲しくもつらくもあるでしょうが、ひっくるめて、アコーディオンをこのうえなく楽しく弾く人だと思います。
いえ、弾く、というより、るっちゃん自身がアコーディオンなんじゃないか?と思うほどです。
アレンジしたフレーズを弾いてくれている、というより、曲の中にるっちゃんが飛び込んできらきらと泳いでいるような感じ。

そんなるっちゃんは、いつもたいていVICTORIAというつややかで輝いた音色のアコーディオンを弾いていて、今回ももちろんそれを弾いてもらったのですが、それとは別に、私が昔古道具屋さんで買った中国製のPARROTという名前のついたチープなアコーディオンも演奏してもらいました。
VICTORIAとはまったく違う、素朴で実直で不器用な感じの音。でも、なんとも捨てがたい味わいのある大衆食堂のような音のする、やけにでかいアコーディオンを、るっちゃんはそれはそれは楽しそうに弾いてくれました。

ピアノも異国の古いピアノとニッポンのお家のアップライト両方をとりまぜましたが、アコーディオンも方やイタリアの名器、一方は中国製の大衆器(?)。鳴る音で景色も違ってすごく面白かった。

でも、イタリアのでも中国のでも、るっちゃんはやっぱりアコーディオンそのものです。

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[link:1283] 2012年09月09日(日) 04:19


2012年09月09日(日)『蟻と梨』日記 10 ◆ブラウンノーズ巻◆

はっきりいう。何度でもいう。このひとたちは天才だ。
例によって、「天才」という言葉を使うのはまったく好きではありません。
なのだけれど、そういうふうにいう他にないのだから仕方がないのです。

「アメリカの太ったおじさんがバケツリレーをしている感じで」
「ジャングルの人」
「ここでいろんなおばけがわらわら出て来て一斉にいなくなる」
などの注文を、次から次へとなんの迷いもなく「あ、はい、わかりました」っていう。
私としては、言っておきながら、「わかったんかい!」と、心の中で笑いながら軽くツッコむのですが、直後、それがすぐに形になって出て来てしまうので、「あ、やっぱりわかったんだね!」と大笑いしてしまうのです。
その心持ちというか、想像を超えるなにかが次々と飛び出してくる快感は、ちょっと口では言い表せません。
音符の名前はすぐにわからなくても、私の出した音を、バンジョーでもマンドリンでもすぐ弾いたり歌ったりできてしまう。
そして、どんな素材だろうが、場所だろうが、人の描いた続きだろうがなんだろうが、そこにびゃーっと引く一筆で、もうブラウンノーズの絵にしてしまうのです。
なんとおそろしい二人組か。
私は、そんなおそろしい二人組と、またどうしても「一緒に」やりたかったのでした。

前回のおせっかいカレンダーでは2曲コーラスをお願いしたのだけれど、今回はどうしても、楽器ごとブラウンノーズ、というのもやりたくて、曲は作った時から決めていました。
決めていたけれど、あえてそれをこういうふうに、とは言わず、まずは好きに料理してもらいました。
その結果、期待を遥かに上回る、徹底的にブラウンノーズ節が炸裂したデモが送られてきたのです。
それはすでに素晴らしく変てこでめくるめくブラウンノーズの世界ができあがっていて、もうどこからも壊すことができない、という完成品であったため、録音当日はとにかく、それを「多重録音で作り込む世界」ではなくて、「なるべくライヴでやろうと思えばできるぐらいのスタイルで」再現することを考えました。
私がぼんやり描いていたアレンジの骨組みとブラウンノーズに前もってある程度考えてきてもらったデモの設計図をもとに、「あとはあんまりなんにも考えないでとりあえずやってみますか」という方式。
録音中にこんなに笑ったことってあっただろうか、というほど、録っている間じゅう笑いがこみ上げてきてしかたがありませんでした。
曲数は少ないのですが、その心地よいユルさと、狂気の共存する絶妙の世界が、その空気感ごと、切り取れたと思います。
エッセンス、とかそういうことでは全くない。もう、居るだけで世界の立ち位置が変わります。
見えていてもいなくても、確実にそこにあるっていうあの存在感はほんとにすごいです。

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[link:1284] 2012年09月09日(日) 13:38

2003年6月16日までの日記


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