忘れ物はないね?

『忘却』とは、忘れ去ることである。
人は『忘れる』という能力がなければ、絶望で生きていけないそうだ。
しかし、私にはそれらの忘れ物が大変愛おしく、また、そういった忘却の 中に存在する、私がかつて此処に存在していた証拠のかけらのようなものが、
どこか遠いところへでも散らばって、ある日ひょっと誰かのしゃっくりを止めたり
犬に遠ぼえをさせたりできないか、などと思うのである。
だから、私はこの日記を書くことにする。
この日記はその日にあった笑えることや、怒れることや、
その日に思い出した面白いことや悲しいことを記すためにある。どんどん忘れていくTwitterはコチラ

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2012年06月09日(土)『蟻と梨』日記 1 ◆2枚組の巻◆

7年ぶりの4thアルバムとして、『蟻と梨』という2枚組のアルバムを出すことになりました。
なりました、というか、長いことぼんやりと考えていた構想は、どうしても2枚組でなくてはいけなかったのです。
とはいえ、ぱっと考えても2枚組はすべてのことが倍なので、その考えをいざ口に出した時には、色々な反対(!)もありました。
けれど、なんだかよくわかんないけどどうもやっぱり2枚組だ、タイトルも決めてしまっている。
ここでこれをやっておかなければ、なんとなく私は次へ進めない気がしていたのです。
うーん、そんな大げさなことじゃなく、ただ単純に、7年もぼやっとしちゃったし、やるならガーッといこう、とこっそり思っていたことを形にすると2枚組になっちゃったのです。
CDが売れないといわれるこの時代、売れぬなら、いっそ押し付けていこうじゃないかホトトギス、というような、謎の反骨精神のような気持ちもあったかもしれません。

しかしながら、決めてしまったはいいけれど、これを作るにあたっては、現在、ほんとにまわりのいろんな人たちにも無理やワガママを聞いていただいている状況で、場合によっては進めば進むほどまわりの人たちに多大な迷惑をかけてるような気がしなくもありません。

しかしもう、だからこそ、後戻りはできない。
なんとしてもいいのを作って、たくさんの人に聴いてもらえるようにしなければ、ご尽力いただいているみなさんに申し訳が立たないのであります。
7年に渡るユルい助走からすっ飛んで、どうか今こそ、私の長年培ってきた「でたらめ力」とでもいいましょうか、「何だかよくわからないけども、ある種の確固たる確信に突き動かされる瞬発力」が発揮されますように。
万一その確信がまちがっていたとしても、それはそれで大笑いできますように。
そしてそれができればたくさんの人々の暮らしの後ろで、苦く、可笑しく、軽やかに聴こえていられますように。

そんなアルバム『蟻と梨』のことを、少しずつご紹介していきたいと思います。
まずは『ガッタントンリズム』のご紹介。
このアルバムから、演奏はすべて『加藤千晶とガッタントンリズム』でありまして、アルバムで、ライヴで、その時々で一緒に演奏してくださる方々はみな『ガッタントンリズム』のメンバーです。
錚々たる顔ぶれです。

15年前に1st『ドロップ横丁』を作った時に初めてお会いして以来、長くお世話になっている我らが関島岳郎さん。
ライヴで色々とやってみたい編成を考えていた頃から参加してくれて、今ではかれこれ十年近く、その類い稀な、寄り添い一緒に踊り、歌うようなリズムに支えてもらっている高橋(けっちゃん)結子さん。
当初は無理矢理お願いしてウッドベースを弾いてもらいながら、さらに毎回エスカレートしつつある私のワガママ、あるいは謎のコード、理不尽なベースラインにも、ブイブイの凄腕でつきあってくださる河瀬英樹さん。
アコーディオン界の若きホープ、目をみはるような勢いで輝きを増している熊坂(るっちゃん)るつこちゃん。
そして、どこにいてもどうしていても、演奏になぜこんなにユーモアがあるのか、そのあまりにも脱帽なセンスと演奏ゆえ、あきらめない私に無理矢理引っぱりこまれてしまった(笑)中尾勘二さん。
そんな中尾さんと同様、この数年、お茶目でおてんばで時にやさしく時にたくましいクラリネットやサックスで楽曲やライヴに新たな風を吹き込んでくださっている、多田葉子さん。
私が何度弟子入りをお願いしても弟子にしてもらえないので、勝手に永遠のライバルに変更させてもらった、ブラウンノーズのお二人。
そして、ギター、エンジニア、共同プロデュースの百人力、鳥羽修。

そこへゲストのような形で、私が20年近く前、上京する前に名古屋でやっていたインストバンド『ザボンドボン』のメンバー中野明美ちゃん、おなじく元ザボンドボンベーシスト、現在は名古屋の名店『コーヒーカジタ』店主の梶田(かじやん)真二くんも参加してくれています。

こんな豪華で素敵で突拍子もないみなさんとアルバムが作れるなんて、そしてライヴができるなんて、私は本当に幸せです。

こんなメンバーと共に、ガッタントン、ガッタントンと妙なリズムでハネ続ける電車にたくさんのお客さまが乗ってくださるのを楽しみにしています。
どうぞよろしくお願いします。

加藤千晶とガッタントンリズム

関島岳郎<Tuba>
高橋結子<Drums・Percussion>
河瀬英樹<Contrabass>
熊坂るつこ<Accordion>
多田葉子<Clarinet・Sax>
中尾勘二<Trombone・Drums>
ブラウンノーズ<Chorus・Drums・Banjo・Mandoline・Toys>
中野明美<Cornet>
梶田真二<Electric Bass>
鳥羽修<Guitar・Ukelele>
加藤千晶<Vo・Piano・Melodion・Recorder・kazoo・Toys>

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[link:1275] 2012年09月08日(土) 15:37


2012年06月29日(金)『蟻と梨』日記 2 ◆ピアノの巻◆

去年の年末2011年の12月28日。
録音は、ピアノからスタートしました。
普通、この編成でピアノから録音、というのはあり得ないのですが、諸々の事情、都合など合わせるとそこから行くしかない、となり、ともかくピアノから録ることになったわけです。

こうしてはじまったピアノ録音。
今回はどうしても弾きたいピアノがあり、そのピアノのあるクリケットスタジオに、無理をきいていただきお願いすることができました。

そのピアノとは1926年のsteinway。
1926年といえば、敬愛するかこさとし先生が生まれた年です。
私はどうやら1926年生まれが好きなようです。
かこ先生が日本で生まれた同じ年、このピアノはハンブルクあるいはニューヨークの工房で生まれ(ニューヨークかハンブルクかは確証がありません)、某超有名音楽家の手に渡り、それが巡り巡ってクリケットスタジオへ来たとのことでした。

このピアノを初めて弾いたのは何年か前のコマーシャルの録音の時。
ひと弾きしてすっかりこのピアノが好きになってしまいました。
私の作った脱力的メロディを弾いたはずだと思いますが、その脱力メロディさえなぜだか小さく吐息をついてしまうような感じ。
実際に弾きやすいかどうかでいえば、弾き込みが浅くて、すぐによく響くこのピアノは、一言で言えば私にとっては「なかなかむずかしい」のですが、一度弾いたら、もっと弾きたい、このなんともいえない枯れた美しい音色に身を委ねていたい、という気持ちになる不思議なピアノです。
このピアノでとにかく条件の許す限り、録り進もう、ということになりました。
でもなにせ2枚組で、曲がたくさんありますから、このスタートの時点で「おそらく全曲はムリなんじゃないか...」と誰もが思っていたと思います。

そして、やはり全曲はムリでした。
その結果、おそらく録り切れないであろう分の予測をたてて、その分は私の実家のアップライトで録音することになりました。
かたや1926年のスタンウェイ、かたや35年ものではあるけれど私が4歳から練習していて、今は実家にひっそりと鎮座している普通のアップライト。しかも前者はスタジオ、後者はただの部屋です。
しかし、この落差がミラクルを生むことになるのです。
人間、開き直るとなんだかよくわからない幸運を呼ぶことがあるようで、この実家の部屋でのアップライトピアノも、またスタンウェイとはぜんぜん違った味わいで、すごく好みの音に録れたのです。
実家に置きっぱなしではありますが、毎年調律には来てもらい(といっても1年に1回ですが)木自体もいい感じに古くなって音も枯れてきているのでした。
調律師さん曰く、「とてもバランスのとれたいい意味で(?)平均的なピアノ(確かに)」なのだそうで、リアルタイムで弾いていた15年ぐらい前までは鍵盤のタッチとか音もあんまり好きではなかったのだけど、それも35年も経つといい具合になってきていました。
いいぞいいぞ、と調子に乗り、5日ぐらい滞在して、保険も含め10曲録音しました。

そして、その後もクリケットスタジオでの録音をさせていただきましたが、なんといっても日々このアルバムだけやっていればよいというわけではありません。
仕事が入ればそちらの締切を優先したりしたり、勿論スタジオのスケジュールもあったりして、集中的に録音できたわけではなく、結果、延びている間に新曲も増えてしまったりして、当初は22曲のはずでしたが、いつのまにか26曲ほどになってしまったのです。

そしてそれはどこからともない「....アレ?曲増えてない?」とのつぶやきから、「だから結局何曲ナンダヨ!」へと変貌をとげていくのです。
こっそり曲目を増やしていたのですが、さすがに4曲も増えていたり、まだこっそり新曲を出そうとしている現場を見つかったりして「もう新曲禁止」令が出、ふるいにかけられ、結局2曲増の24曲に落ち着いたのでした。
それでも、録音している鳥羽修にはとんでもなく迷惑だったことでしょう。
なにせ、やってもやっても終わらないのです。
そして、この悪夢のような曲数との戦い(笑)は、半年に渡り、マスターができるまで続くのでした。

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[link:1276] 2012年09月08日(土) 15:38


2012年07月18日(水)『蟻と梨』日記 3 ◆けっちゃんの巻◆

録音はピアノを録りつつ、同時に今回、ガッタントンリズムとして演奏をお願いした他のミュージシャンのみなさんも進んでいきました。

ピアノの次に録音をスタートしてもらったのはけっちゃんこと高橋結子さん。
けっちゃんには、もうずいぶん長くドラムでサポートをしてもらっていて、かれこれ10年ほど一緒に演奏しているのですが、ほんとうにいつもびっくりします。
けっちゃんの、丁寧に曲に寄り添い景色を紡いでいくようなプレイ、そして、例によって抽象的な私の曲解説や、意味不明のリクエストを、まるでスポンジが水をしみ込ませるようにすぅっと飲み込み、次の瞬間、見事なまでにその景色を描いてしまう表現力の豊かさ。
一言でいうと、まるで「やわらかい大黒柱」。
風があっちから吹けばこちらへちょっと曲げて、そっちが濡れればそちらへちょっと軒を傾ける、みたいな(実際、そんな家はありませんが・笑)。

大黒柱でありながら、それでいて、逆にお家にすーっと寄り添ってもいて、一緒に建っている。
そんな、なくてはならない存在です。

デモを聴いてもらって、相談するのも

私「ここはねえ、チョキチョキしてほしいんだー。で、自然に、気がつかないうちに変なことになってっちゃう」

けっちゃん「あ!そーか、ハサミか!」

私「うん、じゃ、いってみるね」

けっちゃん「やってみまーす」

とか、

けっちゃん「あ、これ、いま水溜まりに入ってます」

とか。

私「もっとぽくぽく歩いてっちゃってときどき引っ張られて足がもつれる」

とか。

そんな説明の仕方はあんまり他では、というかよっぽどの信頼関係がないとできないのです。
そのあたりの隠れた背景も、楽しんで聴いていただけたら面白いと思います。

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[link:1277] 2012年09月08日(土) 15:38


2012年08月12日(日)『蟻と梨』日記 4 ◆中野明美の巻◆

ピアノ、ドラムなどの録音をやりつつも、実際はどんどん他の楽器も録音をしはじめました。
お願いするミュージシャンも曲の楽器編成により、参加をお願いする曲の多さはそれぞれなので、かかる時間もバラバラで、ひとつのパートを全部終わらせて次へ、というようなことはできず、実際は同時進行。曲によって入っていく楽器も違います。

今回、ゲスト参加してくれているコルネットの中野明美ちゃんは、先の日記に書いた、実家でのピアノ録音を行った2月のはじめ、滞在中に一緒に3曲ほど録音しました。

彼女は中学時代からの大事な友人で、20年近く前、私が名古屋でやっていたザボンドボンというインストバンドのメンバーです。
ザボンドボンは、メトロトロンレコードからリリースされた『International Avant Garde Conference vol.3』というコンピレーションアルバムの1曲目に収録していただいていますが、ザボンドボンをやめて私がソロになってからも、1st『ドロップ横丁』でもそれから時々ライヴでもそのコルネットの音色を披露してくれています。
地元のこどもたちのブラスバンドでも演奏したりしているようです。

そんな中野明美のコルネットは、私にとっては特別です。
彼女の吹く、ぽわんとした寝起きのような、時に空き地を転がるような、あるいは待ち人来る間に頬杖をついてながめる雨だれのような音色と息づかいは、他の誰にもマネできないと思います。
いえ、ああいう音色でああいうふうに吹くことのできる上手な人はいくらでもいるでしょう。
けれど、中野明美の吹くコルネットの背景には私の暮らす場所の、ふつうの町の景色が見えるのです。
ステージでも、パーティーでも、カーニバルでもない、普段の暮らしが見え、その暮らしの中に歌うようなこんなコルネットを吹ける人を私は他に知りません。

しかし彼女のコルネット、こんなことを書くとアレなんですが、普段の暮らしの中でその景色を描いているはずなのですが、聴いていると時々、なぜか、フとかのルイ・アームストロングの演奏を聴いている時と同じような気持ちになることがあるのです。
こんな人も私は他に知りません。
この先、年を重ねても、おばあちゃんになったら「おばあちゃんのコルネット」を奏で、一緒に演奏してほしい一人です。

そんな、中野明美ちゃんが吹くコルネット、きっと一度聴いたら、次には「あ、このヒトか」とわかるはず。
聴くとどうしても、なんだかちょっとふわんと笑ってしまうような演奏を、ぜひ味わってみてほしいです。

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[link:1278] 2012年09月08日(土) 15:39


2012年08月21日(火)『蟻と梨』日記 5 ◆中尾さんの巻◆

そして録音はどんどんと他の人も巻き込んで、あちこちの曲にさまざまな人が登場。

天才、という言葉をむやみに使うものではない、ということはよーくわかっているけれども、
やはりこの人には使わずにはいられません。
中尾勘二さんという人は、一見寡黙で、なんとなくちょっとこわいひとなのかな、という気持ちが一番初めはありました。

でもそういう気持ちをはねのけてでも、ぜひとも一緒に演奏してもらいたいと思ってしまうほど、中尾さんのトロンボーンと、そしてちょっとやそっとじゃ制御できないエンジンのついたようなドラムは魅力的で、最初に演奏を目撃した時から惹き付けられてやみませんした。
そして、一緒に演奏してもらえる機会が増すごとに、中尾さんという人のズバ抜けたセンスとお茶目さと、こどものような柔らかくて色とりどりの心の様子?が次々と姿を表し、やっぱりこの人は天才…と思わずにはいられないのです。

ご本人は何か特別なことをやってやろう、という感じではきっとまったくなく、「オレにしかできない演奏を」とか思っているようにも、目立とう、としているようにもまったく見えないのに、そのプレイはなにか常に光を放っているのです。

その演奏を、受け取るこちら側は、どういうふうに見て聴いているかというと、たとえば自分が鬼になって「だるまさんがころんだ」をしたら、次に振り返った時にどんな姿でそこにいるのかが一番楽しみな人、というような感じでしょうか。
「だるまさんがころんだ」で振り返るのが楽しみ、と思えるような人はそうそういるものではないのです。
振り返ると、なぜか必ず「おわ!」と目にとまってしまう。
そしてなんだかやっぱりおもしろくてちょっと笑っちゃう感じがする。
どんな時でも、この、「笑える」ってのはホンットーウに重要で、人生、泣きながらでも、怒りながらでもやっぱり笑っていたいものなのです。
(もちろんなんでもいいから「笑えればいい」っていうことではないのです。ましてや、テンターテインメントとしての笑いは別として、「おもしろいだろ?」という激しい意図でガンガン来られても困ります...)

そういうなんだかわからないけどちょっと笑ってしまうような突き抜けたナニカこそが、とてもかっこいいし魅力的。
魅力あふれるガッタントンリズムの人々の中にあっても、そして、仮にまわりに誰ひとりいなくても、常に変わらない光を放つ、それが中尾さん。
スゴイ人だと思います。

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[link:1279] 2012年09月08日(土) 15:39

2003年6月16日までの日記


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